感謝をもってうけとめる

 彼は、もう一度収容所の生活に戻ることさえあこがれている。すくなくとも、どんなにわずかな希望であっても、いつかはまた幸せになれるという希望を抱くことができたころのことを痛切に思い返しているというのです。このようなことがしばしば起こり得るほど、彼は不幸なのです。人間にとって、ほんのわずかであっても幸せになれるという可能性は、幸せではないという絶対的な確実性以上のものなのです。
 これほど失望した人のそのような悲哀は、最後には、二つのことによって克服されます。それは、謙虚さと勇気です。収容所の囚人だった人ならだれでも、この二つをたずさえて、新しい生活に入ることになります。彼は謙虚になること、絶望的な運命に対しても謙虚になることを学びました。ただ、その謙虚さと無欲さはとても深いので、そもそも外からわかるようなものではなかったのです。
 けれども、人生には、かつて心に誓ったことを守る瞬間があります。そしてそれは決定的な瞬間なのです。その誓いというのは、パンのほんの小さな一切れ、ベッドで寝ることができるという事実、点呼に立たなくてもいい、死の危険がたえずある中で生きていなくてもいいという状況、こうしたものを感謝をもってうけとめるということです。すべてのことが相対的なものに感じられます。不幸でさえもそうです。先にいったように文字どおり無になった人は、文字通り生まれ変わったように感じるのです。しかし、以前の自分に生まれ変わるのではなくて、もっと本質的な自分に生まれ変わるのです。
155p

『それでも人生にイエスと言う』
V・E・フランクル著
春秋社

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