脳卒中の朝

左脳の言語中枢が徐々に静かになるにつれて、わたしは人生の思い出から切り離され、神の恵みのような感覚に浸り、心がなごんでいきました。高度な認知能力と過去の人生から切り離されたことによって、意識は悟りの感覚、あるいは宇宙と融合して「ひとつになる」ところまで高まっていきました。むりやりとはいえ、家路をたどるような感じで、心地よいのです。
 この時点で、わたしは自分を囲んでいる三次元の現実感覚を失っていました。からだは浴槽の壁で支えられていましたが、どこで自分が始まって終わっているのか、というからだの境界すらはっきりわからない。なんとも奇妙な感覚。からだが、固体ではなくて流体であるかのような感じ。まわりの空間や空気の流れに溶け込んでしまい、もう、からだと他のものの区別がつかない。認識しようとする頭と、指を思うように動かす力との関係がずれていくのを感じつつ、からだの塊はずっしりと重くなり、まるでエネルギーが切れたかのようでした。
38p

『奇跡の脳』脳科学者の脳が壊れたとき
ジル・ボルト・テイラー著
新潮文庫

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