「劣等感」自分を過小評価すること

ジム:ねえ、ローラ、君の悩みの種は何なのか、僕の考えを言おうか?インフェリオリティ・コンプレックス!知ってる?自分を過小評価すること、つまり劣等感!
ぼくもそれに悩まされたからよくわかるんだ。もっともぼくの場合、きみほどひどくはなかったがね。ぼくがやっとそれから脱け出したのは、弁論術のコースをとり、声を鍛え、自分に科学への適性があると知ってからだ。それまではどんな分野にしろ自分に人よりすぐれた才能があるなんて思いもよらなかった!
ところで、ちゃんと勉強したわけじゃないんだが、ある友達に言わせるとぼくは心理分析にかけてはプロの医者よりうまいんだそうだ。必ずしもそのとおりと言い張るつもりはないが、たしかにぼくには人間の真理が読み取れるんだよ、ローラ!(口からガムをとり出す)失礼。味がなくなるといつも出すことにしているんでね。この紙にくるんでおこう。靴の底にくっついたら厄介だから。
そう――そのぼくの判断によれば、それがきみのいちばん大きな悩みの種なんだ。人間としての自信の欠如だ。きみは当然もっていいだけの自信を失っている。これまでのきみのことばと、ぼくの観察の基いて、そう判断する。たとえばハイスクール時代にきみが雷のようだと思ったあの足音。教室の入って行くのがこわかった、って言ったね。それでどうした?たかが足音のためにきみは学校をやめた、自分から教育を放棄した、その足音にしたってぼくの知るかぎり事実上なきにひとしいものだったんだ!きみにはほんのささやかなからだの欠陥がある。だれも気がつかないぐらいのものだ!それをきみは想像力で何千倍にも拡大している!
だから、声を大にして忠告したい。自分がなにかの点で人よりすぐれていると思うことだ!
ローラ:どんな点でそう思えばいいの?
ジム:なに言っているんだ、ローラ!ちょっと周囲を見まわしてごらんよ。どうだい?どっちを見ても平凡な人間ばっかり!みんなこの世に生まれてはいずれ死んで行く!
そのなかに一人でも、きみの長所の十分の一ほどのものをもっているやつがいるだろうか!ぼくの長所でもいい!いや、その点から言えばだれの長所でもいい――同じことだ!
人間だれでも一つは人よりすぐれた長所がある。もちろんたくさんある人間もいるがね!

 無意識に彼は鏡に映る自分を見る。

だからその長所がなにか、見つけさえすればいいんだよ!

『ガラスの動物園』
テネシー・ウイリアムズ
新潮文庫

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